名 称: 岩手大学宮澤賢治センター 第96回 定例研究会
日 時: 2017(平成29)年9月29日(金)17:00~18:00
会 場: 岩手大学農学部1号館 2階 1号会議室
講 師: 姉歯 武司 氏 (当センター理事)
演 題: 「雨ニモマケズ」の一考察 その3
司 会: 大野眞男(当センター代表)
参会者: 24名
★例会終了後、18:00~19:00 同階第1小会議室にて、希望者により情報交換会(ミニ茶話会)が開催されました。
【発表要旨】
賢治の法華文学は「天台大師」の三大部の中の、特に「摩訶止観」の「一念三千」を外してはありえない。「一念三千」とは生命の境涯を[地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天、声聞、縁覚、菩薩、仏]の「十界」に区分し、また、「十界」の夫々の「界」に「十界」を備える。それを「十界互具」といい、また、「十如是」「三世間」を含み、「十界互具、百界千如、一念三千」と開く深い天台の生命観である。
それは「思索メモ」の中の「序」の次に「科学に威嚇されたる信仰、」と書かれ、当初は「序」の次に「一、十界を否し得ざること、」と書いて削除した。また、「二、菩薩仏並びに諸八界依正の実在」そして「内省及実行による証明」と書いている。[菩薩仏並びに諸八界]とは「十界」のことであり、[依正]とは「依報」「正報」のことを言い、具体的には自分が「正報」で、自分を取り巻く一切の環境が「依報」と言われ、自分を成り立たせている環境と自分が影響を与える環境を「依正不二」と言う。例えば世界の「温暖化」の「依報」は、「正報」の人類が作りだし、その「依報」により「正報」の人類が危機に瀕している。「縁起」という仏法の法則に則り、一切に影響を与えまた影響を受ける「依正不二」の[実在性]を語っている。
特に「日蓮」が御書「開目抄」で「一念三千は十界互具よりこと始まれり」と「十界互具」の重大さを指し示している。これは、[内省]的には天台が、[実行]的には日蓮が「実証」している所である。例えば、人が平静に相手を思いアドバイスしている時は、「人界」の中の「菩薩界」と言えるが、言い合いになりカッとして「修羅界」の中の「修羅界」になった時、自分自身の現在の生命状態を第三者の目で自己観察でき反省し、適切に自己をコントロールできるようになることが、現在の脳科学で言う「メタ認知」に当たり、その生命認識が円滑な人間関係や感情をコントロールできる能力を築く基になり、最近最重要視され大いに注目されている「脳科学」のあり方と一致していると言える。
アザリア発刊百周年の本年、賢治の岩手大学卒業百周年を迎える現在、百年経ちむしろ「科学に証明されたる信仰」の一部を迎えている時と言えるのではないか。
その他の項目は機会を改める。
▼姉歯武司 氏による講演風景